新しい多賀城市立図書館と図書館システムとTカード

さて、この何回か書いている新多賀城市図書館に関するエントリーですが、今回は図書館システムに関して。

図書館システムは、新建屋への移転とタイミングを同じくして、新しいシステムに切り替わることになっているようで、システム自体は富士通のもので決定しています。

既存システムも富士通ということですがら、システムの移行自体は難しいことは無いとは思いますが、下に示した図(多賀城市立図書館システム構築業務要求水準書 p.35 業務概念図)にある通り、オンプレミスからクラウド方式に変わるというのが、一番大きな変更点になりそうなです。

多賀城市立図書館 提案対象業務概念図

この図で良く見て欲しいのは、右下に位置する「指定管理者データセンター」と書かれたグレーのボックス部分。
そこに描かれた「会員DB」と図書館業務サーバの間には専用線で結ばれるよう矢印が引かれ、その専用線を用いて「Tカード会員照会」と「図書館利用者とTカード会員紐付け」が行われるように書かれています。多賀城市立図書館の指定管理者は、カルチュア・コンビニエンス・クラブですから、会員 DB というのは T 会員 DB ということになりますね。


図書館利用カードとして T カードを利用することは既定路線ですし、そのためのものと思われる専用線接続が当然のものとして盛り込まれているわけですが、多賀城市の個人情報保護条例と T ポイントの関係については、2 年も前にひろみちゅセンセが指摘しているとおり。

つまり、武雄市の個人情報保護条例は、行政機関個人情報保護法や個人情報保護法、普通の個人情報保護条例と違って、どういうわけか、「(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」との条文を欠落させてしまっているため、結果的に、教育部長が言うような詭弁が合法になっているのである。

さて、多賀城市は、これの真似をすることができるだろうか。

多賀城市の個人情報保護条例を見てみたところ、以下の条文となっており、行政機関個人情報保護法と同様の「照合可能型」になっている。

[From 高木浩光@自宅の日記 - 多賀城市図書館は個人情報保護条例改正なしにTポイントを導入できるか]

この指摘がされた時点と状況が違うとすれば、「図書館利用においては、T ポイントは付与しない」ということを行政側が明確に表明していること。だとしても、図書館利用のためのカードとして T カードを選択することで、利用者の氏名・住所といった個人情報は、図書館業務サーバと T 会員 DB のそれぞれに登録され、システム間で利用者を一意に識別するため識別子に T-ID を使い、それによってカードの有効期限チェックなどを行うためにシステム間が「専用線」によるオンライン結合状態にされることになるわけです。

条例でも、電子計算機のオンライン結合に関する条文が定められていますし、新しい図書館業務サーバと T 会員 DB の間ではオンラインでデータのやり取りが行われる可能性が高いことを考えると、条文にもあるとおり個人情報保護審査会による意見聴取が行われてもおかしくはないと思うのですが、現時点では審査会が開催された形跡は見当たらず…。

(オンライン結合による提供)

第9条 実施機関は、公益上の必要があり、かつ、個人の権利利益を侵害するおそれがないと認められるときでなければ、オンライン結合(当該実施機関が管理する電子計算機と実施機関以外のものが管理する電子計算機その他の機器とを通信回線を用いて結合し、当該実施機関が保有する個人情報を当該実施機関以外のものが随時入手し得る状態にする方法をいう。 次項において同じ。)による個人情報の提供を行ってはならない。

2 実施機関は、オンライン結合による個人情報の提供を新たに開始しようとするときは、あらかじめ審査会の意見を聴かなければならない。その内容を変更しようとするときも、同様とする。

[From 多賀城市個人情報保護条例]

当然如く、CCC としては、図書館システムと T 会員 DB は独立しており接続していない、と主張したいのでしょうけど、業務概念図通りにシステム間が専用線で接続されるように構築されるのであれば、その主張は難しいのではないかと思います。
また、業務要求水準書には

エ Tカードの認証に必要なカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下「CCC」という。)、株式会社Tポイント・ジャパン(以下「TPJ」という。)のシステムと接続を行ってください。

[From 多賀城市立図書館システム構築業務要求水準書]

というように、TPJ の名前がさらりと盛り込まれていたりするんですけど、それって多賀城市の個人情報保護条例的に許されるものなんでしょうか…。
#要求仕様書、よく読んでたつもりだったのだけど、このエントリー書く中で気がついた…。orz

また、新しい図書館システムの Web OPAC 自体は、 CCC 管理下のネットワーク上に設置される可能性が非常に高い状況にあり、実際 https://tagajo.city-library.jp/ にアクセスすると、https://ebina.city-library.jp/library/another_top にリダイレクトされるようになっています。(いわゆる Named Virtual Server の形で設定されている模様。)

ワイルドカード証明書になっている点と、海老名市が "ebina.city-library.jp" となっている時点で、今後オープン予定となっている多賀城市や高梁市のサイトを、"tagajo.city-library.jp" 、 "takahashi.city-library.jp" とすれば、同じ証明書を使い回せる、ってことを考えていてもおかしくはなさそうです。

[From 海老名市立図書館の新しいWebサイトで気になること、あれこれ - Soukaku's HENA-CHOKO Blog]

Web OPAC で蔵書検索するにしても、蔵書の貸出予約をするにしても、フロントエンドとなる Web サーバから図書館業務システムへのアクセスは発生しますし、貸出予約のための利用者認証で ID とパスワードの入力も発生します。
多賀城市の Web OPAC が city-library.jp ドメインで公開されるのだとしたら、 CCC が所有する、他の自治体(現時点では海老名市のみ)の Web OPAC と相乗りとなるサーバ上で、「照合可能」な情報である ID とパスワードを入力することの良し悪しも議論しないといけないような気がします。(こちらは、T カード選択云々は関係なく、相乗りすることになる全ての自治体、全ての図書館利用者共通のお話になるんじゃなかろうかと…。)

要求水準と教育委員会の資料に矛盾点?

多賀城市立図書館 新図書館利用カード(案)

業務概念図を見ていて、「あれ?」と思った点がもう一つ。

業務概念図では、各小中学校の図書室と図書館業務サーバの間が接続されているようになっているのに、11 月 4 日に行われた教育委員会臨時会の会議案の中で「児童・生徒の登録情報は、学校図書館のシステム内に保持。本館とはシステム連結しません。」と記述されているページが存在していること。
単純に学校図書室が蔵書していない資料の有無を調べるのであれば、図書館の Web OPAC で検索出来ればよいと思うのですけど、要求仕様書のソフトウェア機能仕様の中には、帳票作成の項目の中に「学校別貸出統計(日報・月報・年報)」があったり、「学校図書データ連携(多賀城市内小中学校の蔵書データを管理し、現状の機能を継承できること。)」という項目があったりと、学校図書室まで一括で管理出来るようなシステムを目指しているように読み取れるのですが…。

現行のシステムがどうなっているのかというと、要求仕様書に対する参加者からの質問への回答書にあるネットワーク構成図通りだとすると、小学校は既に図書館との間は VPN 接続済みで図書館分室と同列扱いとなっている模様。で、新システム移行に合わせて中学校も接続する、と…。

図書館と学校図書館の関係、特にシステム周りがどうなっているのかは、現状手に入る資料や情報から推測できる限りでは、判断しにくい微妙な状況のように感じます。(もう少し情報が欲しいところ…。)

武雄や海老名は、どうなっている?

先行事例である武雄市や海老名市についても、CCC との接続に関しては、最初に示した図のような構成である可能性は高いと考えていいでしょう。(武雄市の接続構成をベースににしている、と言ったほうがいいかな…。)

海老名市の場合、図書館システムの構築や管理そのものが指定管理業務の一環となっているために、システムの調達そのものが行政の手を離れてしまっています。

システムの管理主体が CCC である以上、ある海老名市市議会議員が主張する「Tカードのシステムと切り離すということをした」と言う点を、そのまま信じる訳にはいかないですし、以前のエントリーにも書いたとおり、海老名市立図書館の Web OPAC は CCC の管理するネットワークの中の設置されていることは確実であることも考慮にいれれば、さらなるチェックや監視が必要になると思うのですが…。

本エントリーを書くにあたって参考しにしている、多賀城市が図書館システム調達に際して提示したプロポーザルの実施要領などの書類一式のリンクを示しておきます。興味のある方は目を通して、自身でもおかしいところがないかというのを考えてみていただければと思います。
現在、ツタヤ図書館化が進行している周南市や高梁市の図書館システムも、ツタヤ図書館対応がシステム中に盛り込まれることになる項目もあるはずですしね。

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