学ぶべきは、コンピュータ・サイエンスだと、オバマは言っている #たけお問題

まずは、一本のムービーから。

このムービーは、去年12月に行われた Computer Science Education Week で流されたオバマ大統領のスタートアップスピーチなんですが、ムービーの40秒辺りで、こんなことを言っていますね。

No one’s born a computer scientist, but with a little hard work,
and some math and science, just about anyone can become one.

[From 米大統領「全ての人よ、プログラミングを!」 | スタッフブログ | 中学生、高校生のためのプログラミング・ITキャンプ/スクール]

ただ、この部分にある " a computer scientist " をプログラマーと訳して広めちゃってるサイトがあったりするんですね…。書き起こし全文を読んでみても " a programmer " という言葉は出てきてないんですけどねぇ…。
#それでも、引用元もタイトルでは「全ての人よ、プログラミングを!」ってなっちゃってるのは、アレな感じがしますが…。

訳すとこんな感じになるわけですが、

誰もが少しのハードワークと、数学、科学を使うだけで、コンピューターサイエンティストになることができます。
この週は、それを試しにやってみるためのチャンスです。

[From 米大統領「全ての人よ、プログラミングを!」 | スタッフブログ | 中学生、高校生のためのプログラミング・ITキャンプ/スクール]

やっぱり話題のアノ人は「間違った和訳」を読んでいたみたいで、スピーチそのもののムービーを見たり、英文での書き起こしを読んではいないのでしょうね。(まさに「真に受けてる」状態?)

だそうです。オバマ大統領も最近以下の趣旨を述べています 。

[From すべての人にプログラミングを学んでほしい : 武雄市長物語]

そんな勘違い状態で進められようとしているのが、武雄市 × DeNA × 東洋大学のプロジェクトというわけですから、スタートの時点で結果については「お察しください」状態となっているようにしか見えません。


一応、コンピュータを学んだものとして

実際自分は、工業高校の情報技術科で 3 年間コンピュータを学びましたし、その後就職して 最初の 3 ヶ月間は研修を受けたんで、自分の経験談という形で色々と話しをすることは出来たりしますんで、ちょっと自分語りをしてみたりなんかします。

なんで、コンピュータ関係に進もうかと思ったのかというと、就職に有利そうって、かなり現実的な理由からだったりします。まだまだ高卒でも、結構有名どころの会社に入れる時代でしたからね。(実際、卒業して就職したのは、某総合電気メーカー。)

で、専門科目であった情報技術ですけど、二進数から始まり論理回路、演算装置とはなんぞやとか、フローチャートとかを習ってから、やっと実習でコンピュータに触れるという感じでした。だったので実習用コンピュータで課題のプログラムを実行したのは、1 年生の一学期の終わりぐらいだったはず。そのプログラムだってフローチャート書いてからコーディングシートに起こして、それを紙テームにパンチして、って順番だったなぁ。(ちなみに FORTRAN メインで、COBOL と BASIC もちょこっと。)
そうそう、情報技術の授業に使っていた教科書は、先生の手作りでしたよ。自分が高校に入った時は、まだ情報技術というコースそのものが、出来て歴史が浅かったですし、検定教科書というものも存在してませんでした。

それ以外にも、基板のエッチングとその基板への電子部品のハンダ付け、ベースを旋盤で削り、樹脂を固めた支柱と組み合わせて、電気スタンドを組み立てたり、TK-80 でステッピングモータ回す実習もやりましたし、製図や電気関係や電子系の授業もありましたよ。
学年が上がるにつれてコンピュータ関係の授業や実習が増えていくという感じ。

自分は、高校卒業してから、ずっとコンピュータに関連する仕事を続けていますんで、合っていたんでしょう。(某総合電機メーカーでは営業配属でしたけど、汎用機系のお客担当でしたし、それはそれで良い経験になってます。)
ただ実際に専門的な教育を受けてみたら、それが自分にあってないんじゃないか、ということも高校生になりゃ判るわけで、自分の同級生でもコンピュータに関係ない職についた人も多かったですよ。

自分の職歴を見返して見ると、純然たるプログラマとして働いたのは 1 年ちょっとしか無いんですが、最近は某 OSS なプロダクトの API 叩くためのスクリプト書いたりする機会が多かったりするので、きっと高校時代に習ったことがベースにあるから何とか出来ているんだろうなぁ、というのは実感できていたりします。

では、プログラミングを学ぶことをどう考える?

個人的には、学ばないよりも学んだほうがいいと思ってますよ。ただ学び始めるのは早ければ早いほど良いかと問われたら、ある程度基礎的な学力が付いてからでも、十分間に合うんじゃないの?と答えますね。
実は、家の息子は「ゲームプログラマになりたい」らしいんですよ。多分に親の影響は大きいのもわかるんですが、まだ積極的にパソコンを触らせたりはしていません。まずは、国語、算数といった基礎的な学力や自分から勉強する習慣や対人スキルを身につけさせるのが先決だということで。

自分の経験というのもありますが、「何が問題なのか」「問題を解決するために、どう進めていけばいいのか」といったことを整理するためには、人の話を聞いて理解したり、文章から読み取るといった能力が必要ですし、それらの読み取った事柄を細分化したり効率的な順番に並べたるといったことも出来るようになっていないと、プログラミングの教育を受けたとしても、チンプンカンプンになるんじゃないかと思うのですよ。
分析して整理してフローに落としこむ事ができれば、プログラミング言語そのものをゴリゴリ覚えなくても、それなりにプログラムは組めるようになるわけで…。

それに、プログラミングを教えたとして、全員が全員それにあっているということはまずあり得ないことでしょう。専用教材を用意する(現在進行中で作っている?)ということですが、それの出来が良かったとしても、生徒全員が「プログラミング大好き!」とはならないと思うのです。そもそも 40 分 × 8 回の授業でなんとかなってしまうようなものだったら、現時点で「プログラマが足りません」的な状況にはなっとらんわな、とも。

子供のメリット、大人のメリット

プログラミング能力なんて、数多くの能力のうちのたったひとつに過ぎないのに、多くの子供に無用な劣等感を与えるリスクを上回るメリットとは何なのでしょうか。

[From 武雄市の樋渡市長が 小学校1年生向けのプログラミング教育を撤回すべき5つの理由 | What's Iwasaki?]

この指摘にある通り、授業を受ける(受けさせられる)子供にとってのメリットってなんなんでしょうね?
昨日のエントリーで引用していますが、既に関係者が「効果の分析はアンケートで」、「実験なんですよ」と言い切ってしまっている時点で、どう考えてもまともな教育効果の分析はできなさそうだし、大人にだけメリットがあるからやるんだとしか思えません。合わない子供に対するケアも考えていなさそうなのも気になりますし…。

こんなものを「ロールモデルにしたい」とおっしゃってる方がいらっしゃいますので、実態がそうでなかったとしても「武雄での実験は成功でした」という形にするでしょうし、そうすることで利を得る方々がいるのでしょうねぇ…。
こう言ってしまうと、実際に教育の対象となっている子供を持つ保護者の方々には申し訳ないという気持ちもあるんですが、武雄モデルを普及させないようにするためにも、経過や結果には注意を払っていく必要がありますし、礼賛するような政治家が地元にいるようであれば、その動きは観察しておいたほうがよいのでしょう。

トラックバック(0)

コメントする