市民が作った市民のための図書館のお話(文京区の場合)

三週間ほど前に、予約した蔵書の受け取りのよく利用している千石図書館に行った時のこと。
当日返却のあった蔵書を通常の配架場所に戻す前に、一時的に置かれる書架のあった 1 冊の本のタイトルが、ふと目に止まった。

その本の名前は「図書館をつくった!」。

なんと、千石図書館の紹介ページでは触れられていない、開館までの裏話と、

千石図書館は、昭和51年7月に小石川図書館の分館として木造の民家の建物を利用し「子どもの本」の貸出に重点を置き開館しました。昭和63年には独立した地区館となり、建物の老朽化に伴って平成5年に現在の建物に改築されました。

[From 千石図書館 | 文京区立図書館]

開館から改築されるまでの、図書館内でのボランティア活動(読み聞かせ)や利用者育成に関することが書かれたものでした。

早速借りて読んでみたわけですが、色々と示唆に富む内容でした。


著者は、沖縄県生涯学習センターや大阪府羽曳野市図書館ネットワーク・中央図書館などの生涯学習に関連する施設に携わった、ある意味ではその道のプロという方。
内容は、大きく 3 つのパートに別れており、最初が図書館を作るまで、次が図書館を育ているという観点からのボランティア活動について、最後に図書館を作る過程とボランティア活動を行っていく中で得られた知見を図書館改築に向けての提言としてまとめたもの。

そもそも、図書館の設置計画のあった地域だったとは言っても、仲間を集めて作る会の立ち上げたとこから、設置候補地の所有者を口説いて区と繋いで設置が決定するまでが 1 年半と、かなりの短期間で話が進行していったのですね。勿論、区議会への陳情なども行っており、このあたりは自治体を動かす時の参考となる部分もあるのではないかと思います。

設置が決まってからは、地域文庫を作り運営、開館後も延べ1000回を超えるお話し会をボランティアとして行うことで、「本は身近なもの」として利用者を育てるという活動をしてきた人達の記録でもあるわけですが、その文庫運営とお話会だけで、本の半分強。さらにお話し会に関してで、そのまた 5 分の 3 近くが割かれており、実際のお話し会でどのような本を読んだかやその様子だけでなく、お話し会の進め方や、取り上げる本をピックアップする際のポイント、読み方といったノウハウ的な内容も多く書かれています。
この辺のノウハウ的な話は、読み聞かせのボランティアをやっている人達には役立ちそうです。

そして、最後の提言部分。
ボランティアとして図書館を作り育ててきた実績からも「図書館は地域のアイディンティであり、総合文化拠点である」であることが、提言の冒頭で掲げられ、地域住民にとって重要な施設であることが明確に書かれています。また、書籍の流通問題への言及(小規模書店への配本問題、賞味期間の短い書籍への対応)やリファレンスサービスの充実、地域資料と視聴覚資料収集の重要性などが取り上げれている点は、現在の図書館でも求められる機能であり、30 年近く前に書かれたものとはいえ、今でも十分参考とすることが出来る内容ではないかと思います。
また、パソコンの個人への普及期に入り始めた頃でもあったため、館内、区内図書館間の蔵書検索システムの構築やそれをネットワークによって外部開放することが図書館の利用率向上に貢献する可能性についても言及がある点については、まさに先見の明といったところでしょうか?

ただ、絶版となって久しいらしく、中古で手に入れるか、身近な図書館に所蔵されていることを期待する以外に、この本を読むことが出来ないのは、ちょっと残念なことでは有りますが、図書館に興味を持たれている方には、是非読んでいただきたいと思う本でした。
#特に、武雄市図書館から始まるアレコレから、興味を持たれた方には強くお薦めしたいな、と…。

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