図書館の選書基準が話題になっているので(文京区の場合)

このところ、図書館における「選書」が話題となって(局所的に)盛り上がっていますが、

共通しているのは、所謂 "TSUTAYA" 図書館と呼ばれている、カルチュア・コンビニエンス・クラブが指定管理者として運営を行っているところ。初めて指定管理者として図書館の管理を行った武雄市では、関東近県のラーメンに関する中古と思われるガイドブックや、浦和レッズ関連の中古書籍が大量に買われていることが判明し、10 月 1 日オープンを控えた海老名市でも付録が主となったムック本の中古や料理関係に偏った中古本の購入が行われたとして、議会で問題となっています。
作家や出版業界の中には「新刊販売の障害だ」として図書館を敵視している人達も、少なからずいる訳なんですけど、そういう状況であるのになんで「わざわざ、敵を煽るような」新古本・中古本中心に購入したんだろう、というのは非常に疑問なわけです。「その館の蔵書設計上、どうしても必要だった」というわけでもなさそうですしね。
#多賀城市も、 CCC から「中古本の活用が提案されている」ということなので、同じようなことが起きる可能性が…。

そうなると気になってくるのは、自分の住んでいる自治体の図書館における「選書基準」。
文京区に関しては、調べてみたところ、今年行われた平成 27 年度からの図書館の指定管理者募集の際の業務要求水準書の資料集(PDF形式 250 ページ、1.24MB)の中に、ひと通り収められているのを見つけることが出来ました。
#文京区の場合は A4 で 20 数ページある業務要求水準書 + 250 ページに渡る資料中にある各種条件を順守しつつ、業務を行うわけなんですな、指定管理者は。

一般、児童、視聴覚資料、それぞれでの基準が設けられているのは、それそれで利用者や資料の性質が違うので、一律同じ基準というわけにいかないからなのでしょうね。
また、選書だけでなく、除籍と資料のリサイクルに関する基準も、一緒になっていました。


1 年ちょっと前に除籍基準のことを呟いていたんだけど、この時はサイト上にはないので図書館で直に見せて貰ったんだよね。なので選書基準、除籍基準ともにサイト上で見れるようになっているのは有難い。
ただ現状、指定管理者募集のための資料の一部となっているんで、それがいつまで公開されるかによっては、また見れなくなるわけで、それぞれ単独の文書として、いつでもサイト上で見れるようにしてもらったほうが、よりベターではあるんよなぁ…。

さて、実際に読んでみた感想だけど

最初にある「基本的な考え方」をベースに、ジャンルや NDC の部門ごとの特性に合わせて、細かく規定するという形なっていますが、図書館法図書館の自由宣言などを念頭に置いた上で考えられたもののようです。
文京区の場合、複数館運営、かつ館ごとに収集分担が決まっているので、その点に配慮した記述もちらほら目につきますね。

Ⅰ 基本的な考え方
 資料の収集は、図書館の最も基本的な仕事である。図書館が住民の身近な存在としてあり続けるために「図書館法」の精神に基づき、「図書館の自由に関する宣言」及び「図書館員の倫理綱領」の立場に立って、下記の方針のもとに収集を行う。
 また、資料を有効活用するために、中央館的資料の分担収集の長所を生かし、相互貸借を前提とした資料の共同利用を図る。
1 利用者の「知る自由」を保障し、全ての利用者の立場に立って各分野にわたる幅広い収集に心がける。
2 図書館自らの責任において、自由な立場であらゆる資料に対して偏見をもつことなく、公平に収集する。
3 多様な読書要求を保障していくために、基本的な資料から専門的な資料まで収集する。なお、専門的特殊資料は、昭和58年(1983年)6月収書保存プロジェクトチームの答申に基づき、各館分担して収集していく。
4 地域住民の現にある要求はもとより、潜在的要求も考慮し、将来的にも学術的、教育的、社会的に価値が高く、利用頻度が高いと予想される資料を収集する。また、資料の種類も図書に限らず、社会状況や利用者要求に応じて広く収集の対象としていく。
5 これらの方針・基準は、寄贈資料、非売品資料を含む全出版物を対象とする。

[From 資料集:7 文京区立図書館一般図書選書基準]

3 項にある「昭和58年(1983年)6月収書保存プロジェクトチームの答申」というのが、どういうものなのか気になりますね。

全体に目を通してみた感想ですが、全体的には

  • 網羅的かつ諸説あるものに関しては一説に偏らないように留意
  • 可能なものについては、極力全数揃える
  • 革新の早い分野や法律関係などは最新のものを

というように、集められるものは基本的には集める方向になっているように思えました。もちろん、物理的なスペースや予算面との兼ね合いもあるので、その辺とのバランスを取りながらということになるわけですが、そういった基準があるからこそ、館ごとに特色が出てきているのかもしれません。(この辺の話は、以前にもちょっとエントリーにしてました。)

ハヤカワ文庫全点揃い!!
SF、NV、FT、NF、HM、JA各シリーズの第一巻から揃っています。多すぎて配架できないものは、地下の共同倉庫に大事に保存しています。

[From 水道端図書館 | 文京区立図書館]

武雄市や海老名市でも問題となっている新古本の扱いですが、「絶版本・欠本の収集」について「古書の活用も考慮」となっており、蔵書構築の一環でどうしても必要な場合のみに限定的に利用しているだけのようです。

3 受入れ
(1)新刊見計らいによる選定は、現物を直接評価でき、いち早く貸出せるなどの長所がある。しかし、流通に乗らない本は、配送されないなどの欠点もあるので、漏れのないように注意して選択する。
(2)継続本は、欠本のないように注意する。
(3)絶版本・欠本の収集には、通常の流通機構だけでなく、古書の活用も考慮する。
(4)資料の収集については、寄贈や配付の資料及び保管転換等も積極的に活用する。

[From 資料集:7 文京区立図書館一般図書選書基準]

また、児童図書選書基準の最初の一節。

 図書館児童サービスの最大の目的は、子ども達と本を結びつけ、読書の楽しみを知ってもらうことであり、私達児童担当者の職務はよい本を書架に排列し、子どもと本のめぐり合いの場所を保障することである。そして私達の願いは、子ども達が読書を通じて生活を広げ、豊かな感性、想像力を身につけて成長してくれることである。
 現在、多数の子どもの本が出版されているが、質的には商業ベースにのった名作ものの安易なダイジェスト版、改ざん物、一時的流行に便乗したもの等々、劣悪なものがかなり含まれている。私達はこのような出版状況の中で、児童サービスの果す役割の大切さを改めて見直す必要がある。特に本の選定において十分検討し、幅広い考え方をとり入れ、さまざまな興味に対応できるよう心がけるべきである。

[From 資料集:8 文京区立図書館児童図書選定基準]

良い悪い、善悪と言った判断が自分だけでは出来ないであろう子供たち向けのもの、ということもあって一般図書よりも厳し目の基準が設けられているように感じられます。まぁ「良い悪い」の基準も時代や世相によって、変化するわけで、そのあたりに追随しつつとなると、大変だよなぁ…。

真砂中央図書館への選書基準に関する問い合わせ

さて…

一応「選書基準が知りたい」ってことで、区へ問い合わせしているんですけどね。どういう、回答があるのか、ちょっと楽しみにはしている。(先に、見つけちゃってるんで。)

図書館が、どういう業務を行っているのかを知るためのキッカケともなる資料だと思うので、選書基準や除籍基準は普段から公開しておいたほうが良いのではないかと、個人的には思うのですが…。
回答次第だけど、選書基準、除籍基準の常時公開のお願いや、「昭和58年(1983年)6月収書保存プロジェクトチームの答申」の存在も聞いてみようかな?

自分の住んでる自治体の図書館の選書基準が気になる方は、ググったり問い合わせたりすると、いいと思うよ。
ざっと見たトコロでは、千代田区横浜市など、図書館のWebサイトでHTML形式で公開しているところや、大阪府吹田市のようにPDF形式で公開してたりと、すぐ見つけられるところもありました。


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さて、区立図書館の方に問い合わせしていた件ですけど、一応返事が来たのですが…。 ... 続きを読む

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