多賀城市立図書館の提灯記事が目に付いたので… #ツタヤ図書館

最近、公開された記事で、こんなのがあるというのを Twitter で見かけた。

東北の復興を感じさせる図書館!多賀城市内の図書館をご紹介します!|Joytrip[ジョイトリップ]

個人のブログで吠えたところで、あんまり影響は及ぼさないでしょうけど、記事を読んだら、なんか吐き出しておきたい気分になったので、書いておくことにします。

最も駄目な点は、高層書架でしょ

個人的に多賀城市図書館で一番ダメな点は、東日本大震災を経験した地域にも関わらず、三層に連なる高層書架が使われていることだと思っています。
記事中では

他の図書館での批判や改善点、東日本大震災での経験を踏まえたとても素敵な図書館です。

[From 東北の復興を感じさせる図書館!多賀城市内の図書館をご紹介します!|Joytrip[ジョイトリップ]]

と書いていますが、被災の経験が生かされているのであれば、あの高層書架は、とてもじゃないけどありえないと思うのですよ。特に 3 階の一般利用者の立ち入れない、いわゆる"閉架書庫バルコニー"なる部分は、手摺部分に目隠しパネルが設けられていませんから、地震時には書架から落下した蔵書が更に 1 階に降り注ぐ危険性があるのですよ。
2 階のバルコニー部分の書架も落下対策はされているようでが、本当に蔵書落下の危険性はないのでしょうか。

提案する方もする方ですが、それに疑問を持たずに受け入れた行政の皆さんは、何をもってして安全と判断して、提案をそのまま受け入れたのでしょうか?

震災時の図書館がどうなったのかは、近隣に事例あり

多賀城市内にキャンパスを持つ東北学院大学の図書館では震災アーカイブを構築しており、大学全体が受けた被害状況など公開しています。それ以外にも図書館自体が震災の際にどのような状況だったのか、その後の対策はどう進めているのかといったことを取りまとめ、論文などの形で公表されています。

(3)書架の安全対策と避難経路の確保 -資料を「落とす」か「落とさない」か

今回の震災を通して最も考えさせられたのは、まさにこの点である5。資料を落とせば書架に掛かる負荷は軽減されるが、下に人がいた場合は落下資料による負傷や床が資料で埋め尽くされ避難経路確保が困難になるリスクが高まる。落とさなければ後者のリスクは減少するが、書架全体への負荷は増大し、最悪の場合書架自体が転倒することも考えられる。

[From びぶろす-Biblos|国立国会図書館―National Diet Library]

資料に使われている写真を見ると、さほど背の高い書架を使っていないにも関わらず蔵書が大量に床上に落下してしまい、まさに足の踏み場もない、蔵書が落下しなかった書架は揺れと蔵書の重みのせいで歪んだり倒れたりと、かなり悲惨な状況であったことがわかります。


あの建物を設計した人達は、こういった情報を目にしたことはないのでしょうかねぇ。
まるっきり知らなかったと言うのはもちろん論外ですが、「目にはしていたけど、考慮しなかった」のだとしたら、倫理観を疑わざるを得ません。

そういえば、熊本地震に関連して、ある図書館の館内写真が流れていました。

多賀城市立図書館の書架、特にあの高層書架の前にいるときに発災したとしたら、容易に書架の前から離れることが出来るのでしょうか?非常に疑問です。

設計者は、どんな心境だったのか?

さて、以下にあるブログに掲載されていたメッセージの一部を引用します。

想えばメディアテークのコンペティションに取り組んでいた1995年1月に、阪神大震災が起こりました。私達はその惨状を目のあたりにしながら提案をまとめました。以来実施設計、施工に関わる5年半の間、決して阪神の惨状を忘れていた訳ではありません。設計に於いても施工に於いても、新しい提案を採用しつつ地震や火災に対する安全性には十分意欲的に取り組んだつもりでした。優れた構造家、佐々木睦朗氏の発案による免震的構造の採用や、スティールパイプによるチューブとスティールプレートによるハニカム床スラブの構造システムは今回の震災にも十分威力を発揮したものと確信しております。構造材とガラス等の仕上材のジョイント部分にも周到な配慮をしたつもりでしたが、ガラスの部分的な破損、7階天井仕上材の一部落下、書架からの書物の飛散の様子を見ると、まだまだ我々の力不足であったことを思い知らされます。特に天井の仕上材等は我々が通常大きな注意を払っていない部分であり、当然問題ないと看過している部分にも落し穴があることは大きな教訓となりました。しかし被災時に一人の負傷者も出なかったと伺い、少し心が安らぎました。交通網の回復を待って出来るだけ早急に現地を訪れ、状況を調査させていただきたいと考えておりますが、それにしてもスティール工事を請け負って下さった高橋工業はじめ多くの職人さんが、気仙沼等三陸地域の方々であったことを想像すると心が痛みます。皆様の御無事を心からお祈りするばかりです。

[From せんだいメディアテーク » Blog Archive » メッセージをいただきました。]

これは、東日本大震災発生から間もない時期に、多賀城市の隣りにある仙台市の「せんだいメディアテーク」の設計者である伊東豊雄氏が、メディアテークに向けて送ったメッセージの一部です。引用した部分の冒頭にもある通り、阪神大震災とメディアテークの設計コンペの時期が重なっていたこと、その状況を見ながら提案をまとめたことなどが綴られています。
興味のある方は、是非全文読んでいただきい。

このメッセージを読んだ時、「多分これが、設計のプロフェッショナルとして、建物を手がけた人の偽らざる心情なんだろうなぁ」と、自分は感じたわけですが、多賀城市立図書館の設計者の方々は、どう思うのでしょうか…。

#メディアテーク自身が受けた被害状況は、3がつ11にちをわすれないためにセンターから見ることが出来ます。

ところで、東日本大震災以降、ツタヤ図書館以外の図書館の新築計画や、改装計画などで公表される完成予想図をいくつか見ていますが、何故か高層書架を採用しているところが目につくんですよねぇ…。
これは何故なんでしょう?不思議ですね。

トラックバック(0)

コメントする