新しい多賀城市立図書館と高層書架 #公設ツタヤ問題

全国に、今をときめく()武雄市図書館・歴史資料館をモデルとした、所謂 "TSUTAYA 図書館" が全国に出来つつあります。
このところの、武雄市図書館に関するニュースは、こんな感じ。

関東圏でも、神奈川県海老名市の海老名中央図書館が "TSUTAYA 図書館" 化されて来月1日にオープンします。ここについては、先月中頃から図書利用カードの再手続きが始まっていて、「図書利用カードとして、Tカードを使う必要があるのか?」という点を取り上げていたりします。

さて、今回は ”TSUTAYA 図書館” への名乗りを上げた順番では二番目となる多賀城市に関して。
ここは、多賀城駅周辺の再開発の目玉として、TSUTAYA仕様での建物の新築となる初めてのケースとなっているところでもあります。(開館順で行けば三番目。)

発表時の記事とそれへの感想

発表自体は、2 年前の 2013 年の 7 月 のこと。
ここも、武雄市に倣ってなのか、東京で記者発表を行うという形でしたね。

7月11日、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)代表取締役社長増田宗昭氏と宮城県多賀城市の菊池健次郎市長が「東北随一の文化交流拠点の整備」に関する共同記者会見を東京・代官山の蔦屋書店で開催。同市内への蔦屋書店の出店、および、JR多賀城駅前に図書館を中核に据えた文化交流拠点を2015年夏にオープンする予定を明かした。これはCCCが手がける佐賀県「武雄市図書館・歴史資料館」に次ぐ2例目の事案となる。

[From 宮城県多賀城市、CCCとの連携で2015年夏に新・市立図書館オープンへ - ITmedia eBook USER]

「あの震災で甚大な被害を受けたとろこに、こんなに吹き抜け多用した建物建てるなんて、クレイジーだよな。しかも公共施設たる図書館で?」というのが、発表時に公開されたパース図を見た時の自分の第一印象。
「まさか、このままじゃないよねぇ」と思っていたら、そのまんま建設が進んで、来年の春にはオープンする、という状況。自分の観測範囲では、地元側からのさしたる反対意見も見ることなく、すんなり進んでしまったような印象を受けるわけですが…。


図書館は、多賀城駅北地区第一種市街地再開発事業の一環として建設される建物のうち、 A 棟と呼ばれるものにあたります。
ここに、現在別の場所で運営されている多賀城市立図書館と、商業スペースとして、蔦屋書店、スターバックスコーヒー、レストラン、コンビニエンスストアが入る、という形になっています。

A 棟の工事は順調に進んいでいるようで、A 棟内部の写真も公開されており、その状況を窺い知ることが出来ます。


ほぼ、パース図通りの出来上がりになりそうな感じですが、上で引用しているパース図で見える 3 階部分の渡り廊下がなくなっているのがわかりますね。
設計図面については、それを情報開示請求で入手した人のツッコミをまとめてありますので、そちらをどうぞ。

高層書架と狭い通路

さて、もう一枚、A 棟内部の工事中の写真を引用してみます。
アングル的には、ほぼ上の工事写真と同じですが、撮影者の背中側が多賀城駅からのエントランス、左手側に図書館、右手側が蔦屋書店などの商業スペースにあたります。


ちょうど 2 階の渡り廊下の下あたりに、作業員が数名写っているのですが、そこに写っている人達の頭上から渡り廊下の下面部までの空間がえらく広く感じるのは自分だけでしょうか?写っている作業員の身長を 175cm ぐらいと仮定してみたとしても、軽く倍以上はありそうに見えます。(勿論、床がまだ出来上がっていないので、実際の出来上がりとは変わってくるとは思いますが…。)
写真左側、まだ柱と庇状の構造しか見えていませんが、ちゃんと内装が仕上がった時には、そこが高層書架となる部分。そして、同じように 2 階、3 階も高層書架となり、巨大な「本の壁」で覆われたような形になるわけですね。

2階の吹き抜け部分から見た再開発ビルの完成予想図

2 階と 3 階は、この高層書架の前にバルコニー状に通路が出来るわけですが…。
さて、左のパース図ですが、これは河北新報オンラインに掲載されていたもの。

2 階の吹き抜けに面した高層書架前の通路から見たパース図のようですが、これからすると通路、結構狭いような気がしますね。
気になったので、設定図面を入手したあろTAKE!氏に、図面から通路幅が読み取れないかをお聞きしてみたところ、「『書架のない状態』で、壁面から手すりまで 1,710mm 」であるとのこと…。

A4 縦長サイズの書籍が入るような書架が置かれることを想定すると、この 1,710mm から 210〜230mm 近くが書架の奥行きで消えるのだから、実際の通路幅はは 1,500mm に満たないんじゃないのか、という指摘も頂いたのですけど、1,500 mm 程度だと武雄市図書館と同じぐらいの幅になるようです。

高層書架と狭い通路の関係性については、武雄クラスタとしては、既に論点として上げられているので、チョット探せばすぐその時の議論の経過が出てくるわけですよ。

結局、武雄市図書館では、2 階書架バルコニーに「ダイアシバダッタ」なる通称がクラスタのメンバによって命名された巨大な作業台が用意され、バルコニー部の書架の高層部にある蔵書の取り出しはコンシェルジュが行うという事になったわけですが、多賀城市ではどうするつもりなのでしょうか?
やはり、ダイアシバダッタが用意されるのでしょうか?

Googleインストアビューで確認できる巨大作業台

勿論、コレを使えば大丈夫というわけでなく、労働安全衛生規則に定められた高所作業時に取る必要のある安全対策(命綱、ヘルメット装備など)は必須だろう、というのが武雄クラスタ内での共通認識となっているといえるでしょう。

ですから、当然同じように高層書架を配する多賀城市でも、蔵書取り出しや排架による高所作業の問題点は、当然のように当てはまるわけです。更に、多賀城市の場合は 3 階にまで高層書架がある分、危険度は武雄市とは比べものにならないほど高くなっているのではないでしょうか?

そして地域的には…

コレ、意外と見落とされているんじゃないかと思うのですが、記憶に新しい東北地方太平洋沖地震以外にもマグニチュード 7 クラスの地震が多い地域なんですよね、あのあたり。(参照:宮城県沖地震 - Wikipedia
♯1978 年のは、福島県県南地方(白河市近く)の小学校の校庭走ってて、地震に気づいたぐらい揺れたのを覚えてる…。

そういう地域性を考えて設計していれば、吹き抜けに面した壁面を高層書架化しその前に狭い通路を配置するなんてのは避けたと思うのですが…。

  • ダイアシバダッタの上で取り出しや排架をしているタイミングで地震が来たら、そこで作業している人の安全を確保することは出来るのか。
  • 作業時でなくても、地震でダイアシバダッタが 2 階や 3 階の通路部分から降ってきたりしないのか。
  • 勿論、蔵書が降ってくることはないよね?

といったことまで考えては、内部デザインをしているとは思えないんだよなぁ、素人目で見ても…。
そして、この高層書架とバルコニーの組み合わせは他の自治体にも展開される予定の "TSUTAYA 図書館" のパース図にも描かれていますので、当然のように武雄市や多賀城時で懸念されている問題点がそのまま当てはまるという状態になっているのです。

多賀城市立図書館、11 月末から移転作業のために閉館する予定になっています。旧図書館から蔵書が運び込まれて、排架作業が進められることになると思うのですが、その時点では万全の安全対策が行われていることを祈りたいものです。

最後に…

その高層書架とバルコニー、東北地方太平洋沖地震クラスの地震が来ても、耐えられますか?

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